「地域食」をテーマにして復活したのが、古代チーズ「蘇」です。
「郷土料理」ではないだろう、というのが、学部の「出し物」から外さた理由の一つでしたが、
多分本当の理由は、提案者Mくんの気持ちの問題でした。
翔和学園大学部の文化祭が目指すもの、それは「驚き」と「感動」です。
そもそも「蘇」を皆さんはご存知でしょうか。
文献によると、7世紀末に作られた記録が残っている歴史ある食べ物で、平安貴族が食した乳製品と書かれています。
これを再現するのであれば、「驚き」と「感動」は、約束されています。
誰もが凄いと思うはずです。M君のアイディアは本当に素晴らしいと感じました。
しかし、言い出した当の本人の腰が途中から非常に重くなります。
当初は、「クックパッド」に掲載されている安直な「蘇」を作ろうと思っていたようなのです。
私たちが求めるのは本格的な「蘇」です。
つまり、牛乳を数時間にわたり、とろ火で焦げないように煮詰めさせ、チーズ状に凝縮させていくものです。
いくつかの業者や何人かの料理研究家の調理工程の動画がYouTubeに出されています。
簡単に言えば、その作業の大変さに「ひよって」しまったのでしょう。
あれやこれやと難しさを言い連ねます。
教員の一人が彼に「もうやらなくてもいい」とクビを言い渡しました。
代わりに「教室の飾りつけをしてください」と頼みました。
彼とペアを組んだ女子学生の後輩Nさんは、黙々と牛乳を煮詰めているのに、文句ばかりを言う発起人をみっともなく感じたからでしょう。
大事な学校行事の文化祭、本気で取り組めないのであれば、「やらない」「やらせない」のも翔和学園の教育の一つです。
■後日談■
M君は最終的には、「蘇」づくりに戻りました。自分で言いだしたことをしっかり高いレベルでやり遂げる、そのことを確認して戻しました。そもそも、発案者がやりたくないわけがないのです。けれども、私たちの学生の多くは自信がなく逃げ道を作りがちです。その心の弱さを断ち切ってどう向き合わせるか。それこそが翔和学園の教員の責務だと考えています。
文化祭と言う舞台で、自分が頑張ったものをお客さんにしっかり評価してもらってこそ、ゆるぎない自尊感情をつくることができるのです。
ようやく「蘇(古代チーズ)」が完成し、「驚き」の味を再現することできたのですが、文化祭初日の当日Mくんは体調不良でダウンしてしまいました。負荷が強すぎたかもしれません。私たちも色々反省をします。
結局、文化祭2日間で、得られたはずの貴重な賞賛や達成感を逃してしまいました。
しかし、幸運なことに、今年の大学部は長野でも文化祭を行います。
長野翔和学園での文化祭を通して、再挑戦してもらいたいと考えています。