席から立ちあがり、まっすぐに江古田君のパソコンに向かっていく中野さん。
午後の授業終了間際に、「班の仲間同士で、自分のスピーチを見せ合いなさい」という指示を教員が出しました。教室で一番最初に立ち上がったのが中野さんでした。
中野さんは少し腰を屈めてパソコンをのぞき込み、江古田君のスピーチに耳を傾けていました。笑いながら、内容についてコメントもしていました。
中野さんが自分のスピーチについて仲間に話しをする際には、パソコンの向きをくるっと変えて、班の仲間に見やすいようにして話していました。
実は、午前中にも「スピーチを見せ合う」という場面がありました。
そのときの中野さんは、自分の席に座ったまま動けず、誰とも話ができなかったのです。
他にも誰とも話しが出来ていない学生が数名いました。教員が学生たちに語りかけました。
「独りぼっちになっている人がいる。
独りぼっちになっている人にも言いたいことはある。
いつまでも、待ってるだけでいいのかい?
独りぼっちにしている人にはもっと言いたいことがある。
自分だけが独りぼっちでなければそれでいいのかい?
こんなちょっとした場面でも、独りぼっちをつくらないと決める。
そんな集団の強い意志がないと変わらないよ。」
そうして午後の授業も同じ場面があり、中野さんは真っ先に立ち上がって江古田君のスピーチに耳を傾けたのです。
学期始めの3者面談で「やるべき事をがんばれるようになりたい。出来ないこともあるけれど、実際にはやりたくなくてやらなかったことの方が多い。」と本音を語ってくれた中野さん。
一歩ずつ、前進しています。